誰が日本の投資信託をダメにしているのか

日本の投資信託をダメにしているのは資産運用業界(投資信託協会)と金融庁です。資産運用業界は、投資家が必要とする情報を開示しないまま、長年、素人の顧客から濡れ手に粟の利益を上げてきました。金融庁はこうした業界に迎合し、適切な指導を怠ってきました。

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情報開示を拒む投資信託協会

投資信託協会は、独立した第三者で構成される団体ではなく、単なる業界の自主規制団体です。協会トップも大手の会員企業から持ち回り制で選ばれています。そもそも論として、こんな投資信託協会に、投資家目線の変革を求めること自体、無理があるといえます。そのことは、以下のやり取りからも明確です。

金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」(2012年4月6日)におけるLIFEMAP,LLC代表・竹川氏による問題定義と、これに対する投資信託協会の回答です。

竹川氏は、実際の米国の運用会社(CapitalGroup)を引き合いに、運用担当者の情報開示の必要性を具体的に訴えました。

米国の運用会社は、要約目論見書にポートフォリオカウンセラーの経験年数、役割などをきちんと記載しています。

また、運用会社の経営者、運用担当者が、運用している投信に自己資金をどの程度投じているかを開示しています。これにより投資家は、経営陣、運用担当者が同じボートに乗っているのかをチェックできます。

この提言に対する投資信託協会(大手資産運用会社・担当者)の返答は次のとおりです。

ご指摘のありました運用担当者の経歴や報酬体系等の開示についてでありますが、投資にかかる意思決定は、投資運用委員会等で行われていることも運用会社によっては多くあります。

したがいまして、1人のファンドマネジャーに依存するものではないこともありますので、こうした開示を行うことの効果について考えていく必要があると考えております。

「考えていく必要があると考えております」。審議会の場を愚弄するかのような絵に描いたお役所答弁です。投資家からの重要な提言は、この中身のない回答をもってあっさり終了しました。「またいつもの情報開示の要望かよ」という投資信託協会の声が聞こえてきそうです。投資信託協会は、業界の自主規制団体にすぎません。利益誘導団体といっても過言ではないでしょう。

ところで、議事・進行役の金融庁は何を目的にこの会議を開いたのでしょうか。投資家の利益よりも業界の利益を重視しているのは、金融庁自身ではないでしょうか。

業界団体にべったりの金融庁

金融庁が、顧客本位・投資家保護とはほど遠い、いかに業界団体にべったりの組織であるかは、以下の議論からも明らかです。

費用の実額表示について

2013年6月に公布された改正投信法を含む投信制度改正において、業界の自主性に委ねられたことがあります。それが、投資家の負担した費用の実額表示と運用担当者の経歴開示でした。

わかりやすく解説すると「業界の自主性に委ねられた」とは、「費用の実額表示と運用担当者の経歴開示がまたもや実現されなかった」ことを意味しています。

当時の金融庁総務企画局市場課企画官、横尾氏の発言です。

議論の過程で、トータル・リターン通知に併せて、投資家が負担した信託報酬などのコストを個別に実額で提示するという意見もあったが、システム的に困難ということで断念した。

また、運用担当者の経歴開示も、各社の自主性に任せることとした。

これらの情報が有用と考えるなら、規制の有無に関わらず、自主的に開示するとともに、運用担当者の運用力の高さを前面に押し出すような営業が行われることもあり得ると思っている。

なんとも突っ込みどころ満載の発言です。

1つ目「費用の実額提示がシステム的に困難」?。あきれた発言です。金融とテクノロジーの融合、フィンテック、AI(人工知能)等と自らのテクノロジーの高さをアピールしている金融機関が、それしきのことができないわけありません。金融庁の担当者が顧客の利益を顧みず、業界の代弁者になっていることが驚きです。

2つ目「これらの情報が有用と考えるなら」?。他人事かと突っ込みたくなります。顧客の利益を考えれば、有用でない理由はゼロです。これまで業界の自主性に任せた結果が、情報の隠ぺいです。もはや米国同様に運用担当者の開示は義務付けすべきです。

運用担当者のプロフィール記載について

2014年9月『金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」最終報告及び平成25年の「投資信託及び投資法人に関する法律」等の改正を踏まえた改正』より

識者コメントの概要

運用報告書に「運用責任者のプロフィール」を記載するように求めてはどうか」

金融庁の考え方

既に、運用責任者のプロフィールについては、「監督指針Ⅵ-2―3-1(1)②イ.」において運用担当者の運用経験年数等を受益者等に対して明示することを促しており、これらを運用報告書に記載するか否かについても、各運用会社が、運用する投資信託の特性に応じて、対応されることが望まれるため、画一的に記載を求めることはなじまないものと考えます。

「対応されることが望まれる」。なんとも他人事な発言です。

識者からの具体的な提言に対する金融庁のコメント。なんなのでしょうか、この消極的な姿勢は。先の投資信託協会の返答と全く同じです。顧客の利益を優先して考えれば、金融庁が出すべき答えは明確なのに、はぐらかしておしまい。

運用担当者が変更した場合の情報開示について

同じく、2014年9月『金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」最終報告及び平成25年の「投資信託及び投資法人に関する法律」等の改正を踏まえた改正』より

識者コメントの概要

運用報告書は継続保有をすべきかどうかの判断をするための資料とも言える。期中に運用担当者の変更があった場合には、運用の一貫性が保たれているかどうかを注視する必要があることから、その事実と、できれば事情を報告書に開示することが望まれる。

金融庁の考え方

今回の改正は、投資信託の運用体制の状況に関し受益者等に対し、それぞれの投資信託の特性に応じて、分かりやすく記載することを求めているものであり、内容について変更が生じた場合にも必要に応じて適切な情報提供が行われることが期待されます。

「期待されます」。なんとも他人事な発言です。

金融庁は変わったのか?

2015年7月に金融庁長官に就任した森氏の発言をご紹介します。

資産運用業界の関係者向けセミナー(2017/4/7)において、手数料稼ぎを目的に顧客に投信信託を回転売買させる資産運用業界の悪行を厳しく批判しました。

資産運用業界の皆さん、考えてみてください。金融知識を持った顧客には売りづらい商品を一般顧客に売るビジネス、顧客の利益よりも手数料獲得を優先するビジネスは、そもそも社会的に続ける価値があるものですか出所:日本証券アナリスト協会 第8回 国際セミナー

ここ数年、友人から、こんな苦情を聞くことがよくあります。「母親が亡くなり遺品の整理をしていると、最近購入したと思われる、お年寄りには到底不向きのハイリスクで複雑な投信が、何本も出てきた」出所:日本証券アナリスト協会 第8回 国際セミナー

投資家本位の姿勢を明確に示した森金融庁長官。長官任期が気になるところですが、今後の金融庁に期待したいと思います。

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