THEO+Docomo、Theo+〇〇銀行等、ロボアドバイザーによる個人向け投資一任運用サービス「THEO」が他社と組んで販売攻勢をかけています。「初めての人でも手軽に資産形成をはじめられます」。「 毎日を忙しく過ごす人の預金にかわる新しい選択肢へ」。こんな宣伝文句に煽られてTheoを契約する前に、知っておくべき注意事項をお伝えしたいと思います。
目次
参考にならない運営会社のシミュレーション
同一のサービスで異なる2つのシミュレーション
まずは次の2つのグラフをご覧ください。どちらも、THEOの運営会社が作成・掲載しているシミュレーション結果です。
パターン1
次のグラフは、本家本元のTHEOのウェブページに掲載されているシミュレーション結果です。(出所:https://theo.blue/ 2018年10月末現在)
これを見て、皆さんはどういう印象を持たれるでしょうか。
結構、儲かりそうだな。たとえ上手くいかなくても、そんなに損をしなさそうだな。こう考える人は、術中にはまっています。後で詳しく説明します。
パターン2
次のグラフは、NTTドコモとの提携サービス(THEO+[テオプラス] docomo)のウェブサイトに掲載しているシミュレーション結果です。(出所:https://docomo-inv.com/theo/ 2018年10月末現在)
10年後に期待される運用資産額が、先ほどは571万円だったのに、今度は588万円と異なる金額が示されています。この違いは何でしょうか。
ちなみに、パターン2のグラフにおいて、青い太線が最終的に600万円を超えて表示されています。太線の下端を見ないといけないのでしょうか。
2つのシミュレーション結果の違い
2つのシミュレーションにおける最大の違いは、パターン1は運用報酬控除後、パターン2は運用報酬が控除前の結果を表している点です。(各シミュレーションの詳しい前提条件は、それぞれのウェブページでご確認ください。)
パターン2は、なぜ運用報酬を反映しないシミュレーション結果を掲載することになったのでしょうか。提携相手の大企業から、少しでも儲かるように見えるようにとの要請でもあったのでしょうか。
THEOの運営会社に強く改善を要請したいと思います。同一のサービスなのに、ウェブページによって異なるシミュレーション結果を示すのは顧客を欺く行為です。直ちに中止してください。
シミュレーション結果を見る時の注意点
運用の世界では、事前の期待こそ、あてにならないものはありません。プラスの利益どころか、10年以上の長期投資であっても、運用結果がマイナスになることも珍しくありません。シミュレーション結果を見る時に、一番大切なことは、「シミュレーションはあくまでもシミュレーションにすぎない」という基本認識を常に持つことです。シミュレーション結果は、計算の前提条件を変えることで、都合のいいように作ることができるからです。
逆に、シミュレーション結果を示す立場の者(運用会社)は、不都合なことを隠すことなく、都合のいいように作ることなく、顧客にとって最善と考える方法をよくよく吟味しなければいけません。
その点で言えば、THEOは、先に指摘した異なるシミュレーション結果を顧客に示している大問題だけでなく、改善した方がいいと思う点がいくつかあります。「何がわからないかが、わからない」初心者を相手にビジネスをする以上、不都合な事実を隠すことがないよう、特に運営側は最善の注意を図る必要があるはずです。
次に、THEOのシミュレーションを見る場合の注意点を具体的にお伝えしたいと思います。
計算の前提が妥当か否か
これは運用のプロでも、何をもって妥当とするのか、主観を入れざるを得ない悩ましい命題です。
結論を言えば、当サイトは、THEOが提示するシミュレーションは、計算の前提条件が楽観的すぎると考えています。具体的には、投資資産の上昇率の想定値(期待収益率)が高すぎると考えています。
THEOのシミュレーション結果は、期待収益率を約6.2%、リスク(期待収益率の変動度合い)を約5%と想定していると当サイトでは、分析・推定しています。期待収益率6.2%は、10年国債利回りが2%を超える米国であれば、妥当な想定値と言えそうですが、10年国債利回りが1%にも満たない日本では、実現性に乏しい楽観的な想定値と言わざるを得ません。
楽観的な前提に基づくシミュレーション結果は、リスクを過小評価することになります。より保守的にシミュレーション結果を見る為にも、そこで、当サイトでは、期待収益率4%を前提に計算したシミュレーション結果をお示ししたいと思います。
運用資産が、積立によって増えたのか、運用益によって増えたかわからない
THEOのシミュレーションは、毎月3万円づつ積立投資をする前提で計算されていて、グラフに表示されている運用資産額は、この毎月の積立投資額込みの数字です。
このこと自体は問題はないのですが、これだけだと、運用資産額が、積立によって増えたのか、運用益があがったことによって増えたのか、区別をつけることができません。投資の初心者は、右肩上がりで増えていく運用資産額のグラフを見て、(実際は積立投資をした結果、運用元本が増えているのが大半なのに、)あたかもすごい運用益が上がっているかのような錯覚を覚えるかもしれません。
そこで、シミュレーション結果を見ている人に、より正確に、わかりやすく理解してもらう為に、当サイトでは、運用資産額から運用元本を除いた、運用損益(いくら儲かったか、または損をしたかの実額)も、明確にお示ししたいと思います。
費用・税金の影響が明確に示されていない
THEOは運用資産額の一定割合を投資一任報酬として顧客の口座から毎日徴収しています。しかし、投資家はいくらTHEOに支払うことになるのか、THEOのシミュレーション結果を見てもイメージすることすらできません。
ストレートに批判します。そして改善を提案します。学生のレポートじゃないのだから、THEOは最低限、費用や税金の支払いを考慮したシミュレーション結果を顧客に示しなさい。最先端のテクノロジーをうたう会社が、顧客にはどんぶり勘定の試算結果しか示さないのは、恥ずべき行為です。
当サイトでは、あたりまえのことですが、各種費用や税金を控除したシミュレーションを実行し、それらの実額も明確にお示ししたいと思います。
当サイトが妥当と考えるシミュレーション結果
THEOの示すシミュレーション結果は、標準ケース(先に掲載したシミュレーション結果の太い青線)自体がそもそも楽観的で、リスクが過小評価されていると当サイトは認識しています。
また、費用すら反映していない、どんぶり勘定のシミュレーション結果を示して顧客を勧誘するのは、不誠実でありえない行為です。THEOがターゲットとする投資の初心者です。違法ではないにしても、会社の矜持に関わる問題です。
そこで、当サイトが妥当と考える前提条件で計算したシミュレーション結果を公開したいと思います。
シミュレーションの前提条件
本家本元の「THEO」のシミュレーションとの主な違いは下記のとおりです。
- 期待収益率6.2%/年は楽観的と考え、より現実的と思う水準、期待収益率4%/年として再計算する。
- 投資対象資産のリスク(変動度合い)は、計測時期によらず概ね安定しているので、THEOと同水準(と推定される)の5%/年とする。
- 費用(投資一任報酬にその他費用を加えた実質コスト)と税金を考慮したシミュレーション結果を示す。
- 運用元本込みの資産価値の表示は、特に積立投資の場合、運用額が積立によって増えたのか、運用益によって増えたかわからない。下かって、資産価値から運用元本を除いた投資損益も明確に示す
シミュレーション結果(費用・税金控除後)
次に示す結果は、THEOのシミュレーションと同様に「初回50万円を投資して、毎月3万円を10年間、積立投資した場合」の計算結果です。支払い費用は投資一任報酬とその他費用、税金の合計額を表しています。
THEOが想定していると推定される、期待収益率6.2%/年の場合
THEO試算 | 当サイト試算 | 差 | |
総投資額 | 410万円 | 410万円 | 0 |
値上がり益 | 178万円 | 166万円 | -11万円 |
支払い費用 | 0万円 | -63万円 | -63万円 |
最終運用資産額 | 588万円 | 514万円 | -74万円 |
投資損益 | 178万円 | 104万円 | -74万円 |
THEOが公開している費用を考慮しないシミュレーション結果と比べて、費用や税金を考慮した当サイトの試算結果は、約74万円、利益が少なくなります。費用や税金の影響がいかに大きいか、お分かりいただけたでしょうか。これを投資家に示さないTHEOは不誠実と言わざるを得ません。
なお、当サイト資産の値上がり益が、THEOの試算結果よりも少なくなるのは、費用支払い等による元本減少分、複利効果が低下するためです。当サイト試算の詳細は以下のリンク先ページからご確認ください。
当サイトが妥当と考える、期待収益率4.0%/年、リスク5.0%/年を前提に、費用や税金を考慮してシミュレーションした結果
リスクシナリオ | 標準シナリオ | 好環境シナリオ | |
総投資額 | 410万円 | 410万円 | 410万円 |
値上がり益 | -21万円 | 166万円 | 265万円 |
支払い費用 | -28万円 | -63万円 | -86万円 |
最終運用資産額 | 361万円 | 463万円 | 589万円 |
投資損益 | -49万円 | 53万円 | 179万円 |
標準シナリオは期待収益率+4.0%/年を、リスクシナリオ(-1σ)は期待収益率-1.0%/年を、好環境シナリオ(+1σ)は期待収益率+9.0%/年を想定して計算しています。リスクシナリオ以下の結果になる確率、または好環境シナリオ以上の結果になる確率は、それぞれ約15%です。
リスクシナリオおよび好循環シナリオは、THEOが公開しているシミュレーション結果のグラフにある、青い太線を挟んで上下に2本ずつある破線の内側に相当します。
最終運用資産額の比較(シナリオ別)
次のグラフは、リスクシナリオ、標準シナリオ、好環境シナリオ別に、THEOと当サイトのシミュレーション結果(最終運用資産額)を比較したものです。
リスクシナリオ | 標準シナリオ | 好環境シナリオ | |
THEO試算 | 450万円 | 588万円 | 760万円 |
当サイト試算 | 361万円 | 463万円 | 589万円 |
なおTHEOの試算値(リスクシナリオと好環境シナリオ)はTHEOのシミュレーション・グラフから読み取った、おおよその値です。
THEOが公表しているシミュレーション結果の水準(想定される運用資産額588万円)は、当サイト試算では、好環境シナリオ(年平均の収益率が+9%という驚異的な数字)を想定して、やっと、同じ水準になることがわかります。
シミュレーションにおける総投資額は410万円なので、リスクシナリオにおいて、THEO試算では+40万円の利益が発生する結果を、当サイト試算では、逆に-49万円の損失が発生する結果を示しています。
注目してほしいのは、リスクシナリオの当サイト試算結果です。期待収益率にマイナス数字(-1%/年)を想定しているので、計算上、運用益もマイナスとなりますが、この場合であっても費用の支払が発生します。運用結果がマイナスでもTHEOは投資一任報酬を毎日徴収します。運用益がマイナスとなるこのケースの場合でも、10年間で総額28万円もの費用(税金やその他費用込み)を投資家は支払わなければならないということです。
THEOの費用をまともに考慮していないシミュレーション結果が、いかに参考にならないものか、如何に実際以上に結果をよりよく表示しているものかが、お分かりいただけたと思います。当サイト試算の詳細は以下のリンク先ページからご確認ください。
まとめ
THEOがウェブサイトで公開しているシミュレーション結果は、費用を一部考慮しているバージョンと、費用を全く考慮していないバージョンの2種類あります。そんな、カラクリがあろうとは、投資の初心者はもちろん、一般の人は知る由もありません。
最先端のテクノロジーをうたう会社が、学生のレポートレベルの、どんぶり勘定のシミュレーション結果だけを示しています。天才にしかわからない何かのアンチテーゼでしょうか。
THEOの運営会社である株式会社お金のデザインは、「THEOの運用報酬は1%だけ」として、費用が割安であるかのような宣伝を繰り返しています。これは明らかな誤りです。THEOの運用報酬は極めて割高で長期投資に向かないということを知ってください。THEOが(ぼったくりと言われている)運用報酬2%から3%の「ラップ口座」と比較して、1%を割安と主張している様は、時代錯誤も甚だしく滑稽です。
最後に、THEOを契約する時に注意すべきことをお伝えします。
- 「初めての人でも手軽に資産形成をはじめられます。」(ただし、それなりの費用を徴収します。)
- 「知識なしでもOK」(日本の有名なことわざで「知らぬが仏」というのがあります。)
- 「毎日を忙しく過ごす人の預金にかわる新しい選択肢へ。」(ただし、それ相応のリスクも覚悟してください。)
THEOと同じ国際分散投資の効果を得るならば、費用の割安な他の投資対象があることを皆さんは是非知ってください。詳しくは次の記事をご覧ください。
ファンド分析 | THEO(テオ)
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