ベンチマークを設定していない投資信託を買ってはいけない理由

巷には、ベンチマークを設定していない投資信託があふれていて、不幸にもこのような投資信託を買ってしまっている人がたくさんいます。こうした人たちは運用がうまくいってるか否かを知ることもないまま、長期投資の名のもとに、延々と信託報酬を支払い続けているのです。

ベンチマークが設定されていない投資信託は、たとえプラスの運用収益が出ても、それが、たまたまマーケット全体が上昇したから(マーケット要因)なのか、運用担当者の実力によるものなのか、区別することができません。

それにもかかわらず、ベンチマークを設定しない投資信託を平気で組成、販売している運用会社がたくさんあります。こうした運用会社に騙されないためにも、主要な運用会社の投資信託を対象に、ベンチマークの有無を調査して、その結果を公表したいと思います。

なぜベンチマークが必要なのか

この記事を読まれている人の中には、なぜベンチマークが必要なのか、疑問に思われる方もいらっしゃると思います。巷には、ベンチマークを設定していない投資信託が普通に存在しているからです。なぜベンチマークが必要なのか、まずは次の例をご覧ください。

年率30%の投資収益率をあげた投資信託

ある投資信託を販売する営業マンがこう言ってきたとします。「この投資信託は、去年1年間で30%の利回りをたたき出しました。お金の運用はプロに任せてはどうでしょうか。」

これに対して、素直な人はこう考えるかもしれません。「銀行に預けても利子が0.1%もつかないこのご時世に、30%の運用利回りを出すなんてすごい。お金を預けてみようかな」。

実は、この話には落とし穴があります。30%の利回りが高いか低いかは、その時のマーケットの状況によって180度、見方が変わるという点です。

パフォーマンスを正当に評価する為に

例えば、昨年、株式市場全体が平均して50%上昇していたら、「この投資信託の運用者は、30%しか稼げない下手くそ」ということになるし、逆に、株式相場が平均して50%下落する状況下で30%の利回りをたたき出したなら「この人は天才かもしれない」ということになります。

つまり、パフォーマンスの良し悪しは、適切な比較対象(ベンチマーク)があって初めて正当に評価することができるということです。単に「損益がプラスになったかどうか」という観点では、運用能力の良し悪しを判断することはできません

投資の初心者だけでなく、全ての投資家は、少なくともベンチマークを設定していない投資信託には手を出さない方が賢明です。

調査方法

下記の公募投資信託の純資産残高上位10社(2018年7月末)の運用会社が運用する、任意の5ファンド(純資産残高が上位の国内株式型の投資信託)を選んで、ベンチマークの有無を調査しました。

  • 野村アセットマネジメント
  • 大和証券投資信託委託
  • 日興アセットマネジメント
  • 三菱UFJ国際投信
  • アセットマネジメントOne
  • 三井住友トラスト・アセットマネジメント
  • 三井住友アセットマネジメント
  • フィデリティ投信
  • 大和住銀投信投資顧問
  • ニッセイアセットマネジメント

調査結果

名だたる運用会社の国内株式型の投資信託、全50ファンドを調査した結果、次のとおり、ベンチマークが設定されていない投資信託が16ファンドもありました。

ベンチマークが設定されていない投資信託

運用会社 ファンド名 評価
野村アセットマネジメント 日本企業価値向上ファンド ×
野村アセットマネジメント 野村日本割安低位株投信 ×
野村アセットマネジメント 日本好配当株投信 ×
日興アセットマネジメント ジャパン・ロボティクス株式ファンド ×
三菱UFJ国際投信 優良日本株ファンド(ちから株) ×
三菱UFJ国際投信 日本エネルギー関連株式オープン(プロジェクトE) ×
アセットマネジメントOne 日本厳選中小型株ファンド ×
三井住友トラスト・アセットマネジメント 日本厳選割安株ファンド ×
三井住友トラスト・アセットマネジメント 中小型株式オープン(投資満々) ×
三井住友アセットマネジメント 三井住友・げんきシニアライフ・オープン ×
三井住友アセットマネジメント トヨタグループ株式ファンド ×
フィデリティ投信 フィデリティ・日本配当成長株・ファンド(分配重視型) ×
大和住銀投信投資顧問 日本株厳選ファンド・円コース ×
大和住銀投信投資顧問 ニッポン中小型株ファンド ×
大和住銀投信投資顧問 マイ・ウェイ・ジャパン ×
ニッセイアセットマネジメント ニッセイ健康応援ファンド ×

調査した結果、ベンチマークを設定していない投資信託を運用している運用会社は、10社中、9社ありました。「赤信号、みんなで渡れば、怖くない」の異常な状況です。

ベンチマークを設定していない投資信託の種類を見てみると、これらの投資信託のほとんどが、「中小型株に投資するファンド」もしくは「テーマ型のファンド」に分類されるということもわかりました。

うち、中小型株に投資するファンド

運用会社 ファンド名 評価
アセットマネジメントOne 日本厳選中小型株ファンド ×
三井住友トラスト・アセットマネジメント 中小型株式オープン(投資満々) ×
大和住銀投信投資顧問 ニッポン中小型株ファンド ×

中小型株を投資対象としていることが、ベンチマークを設定しない理由にはなりません。フィデリティー投信のように、中小型株に投資する投信信託であっても、きちんと中小型株指数をベンチマークを設定している会社もあります。

うち、テーマ型のファンド

運用会社 ファンド名 評価
日興アセットマネジメント ジャパン・ロボティクス株式ファンド ×
三菱UFJ国際投信 日本エネルギー関連株式オープン(プロジェクトE) ×
三井住友アセットマネジメント 三井住友・げんきシニアライフ・オープン ×
三井住友アセットマネジメント トヨタグループ株式ファンド ×
ニッセイアセットマネジメント ニッセイ健康応援ファンド ×

一方、テーマ型の投資信託のほとんどは、単に特定のテーマに合致する銘柄を機械的に組み入れているだけが実態です。テーマに投資するだけなので、プロの運用者による目利きはほとんど(もしくは全く)必要ありません。当然、運用パフォーマンスも、テーマが相場に合致するかしないか、運任せです。

運用の世界では、テレビや新聞で取り上げられた時点で、既にそのようなニュースは株価に織り込み済と考えなければいけません。テーマ型投信は、わかりやすいことだけが利点で、あるテーマ(例えば、「環境」とか「AI」とか)が話題になっている時点で、そのテーマに投資しても儲けることはできないと考える方が合理的です。猿でも運用できて、かつ、儲かる見込みも薄い、こうした投資信託に高い信託報酬を支払っている人がいるとしたら残念です。

ベンチマークを設定しない運用会社の言い分

ベンチマークを設定しないことに対して、運用会社は、次のような理由を並べている場合があります。それら全てが、顧客の利益を無視した、都合のいい論理の押しつけということを次に説明したいと思います。

理由1:適切なベンチマークがないから

「適切なベンチマークがない」。その代表例が「さわかみ投信」です。適切なベンチマークがなければ、適切なベンチマークを作ればいいだけの話です。例えば、ニッセイアセットマネジメントの「JPX日経400アクティブ・プレミアム・オープン」は、適切なベンチマークがないので、ニッセイアセットマネジメント自らが計算・算出した独自指数をベンチマークとして誠実に開示しています。適切なベンチマークがないからベンチマークを設定しないと唱える運用会社は、簡単な計算すらできないか、そもそも運用のことが分かっていない程度の低い会社と言えます。

理由2:絶対収益を追求しているから

「相対利益(ベンチマークに対する勝ち負け)ではなく、絶対収益(プラスの利益が出るかどうか)を追求しているから」。これが言い分です。一見、正しそうに思えますが、こんなことを平気で言う運用会社の口車に乗せられないでください。

日本では皆無ですが、全うな海外の運用会社は、絶対リターンを運用目標とする場合でも、きちんと、短期金利指数(例えばMRF等)をベンチマークに設定しています。絶対収益だからベンチマークが不要と唱える運用会社は、そもそも運用のことが分かっていないレベルの低い会社です。こうした会社に限って、マーケットが下落局面の場合に絶対収益を獲得する具体的な戦略を持ち合わせておらず、根拠のない期待だけで「絶対収益の獲得」をうたっている場合がほとんどです。中小型株ファンドを投資対象とする投資信託や、配当利回りが高い株に投資する投資信託でよくあるいい分です。

理由3:パフォーマンスが悪いことを知られたくない為

投資信託によっては信託報酬が1%を超える高い費用を徴収するものがあります。投資信託の運用結果は、信託報酬が引かれる分、必ず低下します。このような高コストの投資信託の多くは、長期間でベンチマークのパフォーマンスを劣後しているのが現実です。

多くの運用会社が、投資信託が、ベンチマークを設定しなかったり、不適切な配当を含まない指数をベンチマークに設定しているのは、運用会社にとって実入りのいい高コストのボッタクリ投資信託の運用成績が悪いことを隠す意図が働いている為と思われます。

理由4:説明なし

一切の説明なく、ベンチマークの代わりに、何の参考にもならない「参考指数」をしれっと掲載しているパターンがその典型です。その代表例が「ひふみ投信」です。ひふみ投信の運用報告書を見ると、参考指数(TOPIX配当込み指数)との対比で、パフォーマンスがどうだったか説明がなされています。

投資信託の評価会社であるモーニングスター社は、このファンドを「中小型株ファンド」と位置付けて、そのグループ内でパフォーマンスの評価を開示しています。それによると、ひふみ投信の長期の運用成績は、同類の中小型株ファンドの平均パフォーマンスよりも悪いという結果が出ています。まず、このことを、「ひふみ投信」の購入者は知っているか疑問です。

まとめ

今回調査した50ファンド中、ベンチマークを設定していないファンドが16ファンドありました。世の中で売れている投資信託のうち、3つに1つが、ベンチマークを設定していない結果です。

繰り返しになりますが、ベンチマークが設定されていない投資信託は、運用収益がプラスになって、それが単なるマーケット要因(株式市場全体が上がった結果)によるものか、運用担当者の実力によるものか分かりません。

ベンチマークを設定しない(顧客に提示しない)行為は、投資信託の購入者を欺く行為に他ありません。このような投資信託の購入者は、自分の保有している投資信託の運用が付加価値を生んでいるかどうかわからないまま、長期投資の名のもとに高い信託報酬を継続的に払い続けているのです。

顧客本位とは程遠い運用会社に騙されない為にも、少なくとも、ベンチマークが設定されていない投資信託には手を出さないのが賢明でしょう。

最後に

みなさんはレオス・キャピタルワークスという会社をご存知ですが。この会社が運用する「ひふみ投信」という投資信託についてコメントしたいと思います。詳しくはこの記事をご覧ください。

ひふみプラスを購入する前に知っておくべきこと

この「ひふみ投信」、その運用のコンセプトやディスクローズ姿勢は、既存の運用会社とは一線を画す素晴らしい点がありますが、このファンドも、ベンチマークが設定されていません。なんとも残念です。

ベンチマークを設定せず、かわりに「参考指数」を表示しています。この参考指数、いったい何の意味があるのでしょうか。ひふみ投信のパフォーマンスは確かに「参考指数」の「配当込みTOPIX」を長期で上回っていますが、その大半は、中小型株効果(中小型株のパフォーマンスが、大型株のパフォーマンスを上回っている結果)によるものです。ひふみ投信の銘柄選択効果(ファンドマネジャーの目利きによる成果)がプラスかどうかは、運用ファンドの特性にあった適切なベンチマークと比較しないと誰にもわかりません。

ちなみにこの「ひふみ投信」、モーニングスター社の調査によると、同じ「中小型株を投資対象とする投資信託」のグループ内では、平均を下回るパフォーマンスという結果が出ています。この投資信託の購入者はこのことをご存知なのでしょうか。ひふみ投信は、ベンチマークを顧客に示さず、意味のない参考指数との比較を持ち出して、顧客に、実態以上に運用能力を誇示しているようにも思えます。

運用会社としては、「いちゃもんをつける人はどうぞ買わないでください」ということになるのでしょう。でも、じいちゃんばあちゃんを相手に商売するなら、そして、ここまでの規模に育ったファンドなら、より誠実な対応が必要ではないでしょか。何の参考にもならない参考指数の開示はいますぐやめて、適切なベンチマークを設定して、正々堂々としたパフォーマンスの開示を期待します。