どうして金融業界は高所得者が多いのでしょうか。中にはプロの契約社員として働いている人がいますが、その人たちの話ではありません。リスクを負わないサラリーマンの給与の話です。
コントのような本当の話
かれこれ10年以上前、某アセットマネジメント会社の採用面接に行った時の話です。面接を担当した30歳そこそこの人にこう聞かれました。
「どうして、金融業界で働く人が、高い給与を得ているかわかる?」
聞いてきたくせに、答えを待たず、彼はこう続けました。
「医者や弁護士と同じくらい重要な職種なんだ。わかる?」「それは命の次に大事なお金を取り扱っている仕事だからだよ。わかる?」
コントではなくて、本当の話です。
回答
この人の質問に、私なりに回答したいと思います。
医者や弁護士と同じくらい重要な職種かどうか?
まず彼の言う「医者や弁護士と同じくらい重要な職種」には同意します。ただしこれは金融業に限った話ではありません。
100歩譲って、金融業は特別に重要な職種で、そこで働く人たちは高い給与を得る資格があるとしましょう。次の現職の金融庁長官の発言(2017/4/7)をご覧ください。これでも金融業は高い給与が正当化される職業といえるでしょうか。
資産運用業界の皆さん、考えてみてください。金融知識を持った顧客には売りづらい商品を一般顧客に売るビジネス、顧客の利益よりも手数料獲得を優先するビジネスは、そもそも社会的に続ける価値があるものですか出所:日本証券アナリスト協会 第8回 国際セミナー
ここ数年、友人から、こんな苦情を聞くことがよくあります。「母親が亡くなり遺品の整理をしていると、最近購入したと思われる、お年寄りには到底不向きのハイリスクで複雑な投信が、何本も出てきた」出所:日本証券アナリスト協会 第8回 国際セミナー
もちろんこの発言内容が金融業界の全てを表しているわけではありませんが、決して一部の例外として無視できるものではありません。それは現職の金融庁長官が公の場で発言したからではなく、内部の人間なら誰もが知っているよくある事例だからです。
金融業は特別に重要な職種であるかについて、私はこう考えます。
- 少なくとも、虚業の金融業が、実業の製造業よりもえらいわけありません。
- 少なくとも、既得権益に守られている規制産業の金融業が、自由競争の世界でしのぎを削っている製造業よりもえらいわけありません。
- 少なくとも、組織に守られているサラリーマンが、自らリスクをとって商売をしている八百屋のおやじよりもえらいわけありません。
金融業で働くサラリーマンが他の業界よりも高い給料を得ている理由を、職業の重要性の高低に求めるのは無理がありそうです。
どうして金融業界は給料が高いのか?
本題に戻ります。金融業で働くサラリーマンの給料が高い理由は、金融業は構造的に儲かる業種だからです。その背景は次の2点です。
- 金融業は限られたプレイヤーで富を独占できる規制産業であること。これは同じ規制産業であるテレビ局や通信会社のサラリーマンの給与が総じて高いのと同様です。
- そして金融業は資本主義経済において構造的に他の産業(他者)から富を搾取する立場にあること。これは荘園制における領主のような立場で、畑を借りるのに農民が頭を下げるように、金融機関にお金(元手)を借りるのに庶民や他企業は頭を下げなけれればいけないということです。
退屈だけど楽に高い給料をもらえる仕事
この質問者はインデックスファンドの運用を行う部署の運用担当者でした。運用担当者といっても名ばかりで、実際の仕事内容は きちんとしたマニュアルされあればアルバイトでも新入社員でもできる単純なものです。おまけにインデックスファンドなので運用パフォーマンスに胃をキリキリさせる必要もなく、精神的にも楽な仕事です。
何も金融業だけが専門的な能力・知識を必要とする仕事ではありません。そこで働く人の給与が総じて高いのは、とどのつまりは、仕組み的においしい職業だからです。
この人はこのまま勘違いに気づくことなく世間を見下しながら定年を迎えるのでしょう。金融業にはこんな鼻持ちならない人が多数いると感じるのは私だけでしょうか。