2016年10月「カブドットコム証券」から次のニュースが発表されました。「業界初!投資信託の情報サービスとして信託報酬控除前トータルリターンを配信」です。これは業界の関係者にとっては衝撃的なニュースでした。これが開示されたら、業界の収入源である信託報酬が、顧客の運用パフォーマンスを悪化させる要因となっていることが一目瞭然となってしまうからです。
信託報酬控除前トータルリターンとは
カブドットコム証券が公表している「信託報酬控除前トータルリターン」は、その名のとおり、信託報酬がなかったと仮定した場合の費用支払い前の投資利回りです。厳密にいうと、信託報酬だけでなく合理的に見積もれる範囲で監査報酬やその他の費用も控除したリターンとなっています。
一方、一般的に把握できる、投資信託の月報や運用報告書などで公表されている騰落率は、信託報酬やその他費用を支払った後のリターンです。この数字と「信託報酬控除前トータルリターン」を比較することで、投資家は投資信託の費用(信託報酬やその他費用)の影響がどれくらいあったのかを具体的に知ることができます。
例えば、運用報告書に記載されている実際のリターンが年2%、「信託報酬控除前トータルリターン」が年5%、だったとしましょう。5%と2%の差の3%がこの投資信託にかかる費用だったことがわかります。
詳しくは、カブドットコム証券のウェブサイトに掲載されているプレスリリース:業界初!投資信託の情報サービスとして「信託報酬控除前トータルリターン」を配信をご覧ください。
割高な投資信託が売れなくなってしまう
MUFGグループは、2016年5月にフィデューシャリー・デューティー基本方針を公表し、その中で、『お客さま本位の情報提供』に取り組むことを宣言しています。
しかし実際は、子会社のカブドットコム証券が投資信託の費用開示を積極的に行っている一方で、親会社であるMUFG本体はこの取組みを完全に無視し続けています。
投資信託の費用の影響を、顧客に理解できる形で開示してしまうと、これまで売ってきた投資信託がいかに割高な商品であるかが一目瞭然となってしまいますし、また、割高な投資信託(販売会社にとっては濡れ手に粟の商品)をこれまでのように販売することができなくなってしまうからでしょう。
「顧客にとって有用でも自分たちにとって都合の悪い情報は開示しない」。これが、三菱UFJフィナンシャル・グループの「フィデューシャリー・デューティー」ということです。
カブドットコム証券は次のように主張しています。「投資信託の残高に応じていただいている信託報酬が、基準価額から日々控除された形で公表されていることも投資家の視点からは不透明な理由のひとつ。あえて、控除前の数値を明らかにすることによって、投資信託のコストの透明性が高まる」。
親会社のMUFGはこの意見を真摯に受け止め、今すぐ方向転換を図るべきです。自分たちにとって都合の悪い情報を隠すのではなく、顧客にとって有用なら積極的に開示すべきです。
まとめ
せっかくカブドットコム証券が「業界初!」と銘打ってプレスリリースを出したのに、それに追随する気骨のある資産運用会社は現れていません。結果として「業界初!」のすばらしい試みも、過去のニュースとして埋もれてしまい、今は、カブドットコムのウェブサイトで、数字がひっそりと更新されるだけとなっています。これでいいのでしょうか。
本来なら、親会社である「三菱UFJフィナンシャル・グループ」が傘下の銀行、証券でも、同様の取り組みを推進すべきですが、「大人の事情」で見て見ぬふりをしています。これが、日本を代表する金融機関の実態です。
最後に、モーニングスター株式会社にお願いしたいことがあります。 カブドットコム証券による「信託報酬控除前トータルリターン」の開示は、モーニングスター社との協業で実現したとのこと。モーニングスター社はその気になれば、全ての投資信託の「信託報酬控除前トータルリターン」を自社のサイトで公開できるはずです。
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業界への忖度は不要です。設立当初の理念を公言どおり遂行されることを期待しています。