保有している投資信託から分配金が出ると、なんだか得した気分になります。でも実際は分配金が出る度に損を出しているのてす。投資信託の保有者は、分配金を受け取ることで、実額でいくら損をしているのでしょうか。シミュレーションで明らかにしたいと思います。
分配金に対する誤解
分配金は保有している投資信託の一部解約にすぎない
「分配金」という言葉はいろんな意味で誤解を招くので、私はこの言葉を使いたくありません。「分配金」の実体は、「定期的に実行される一部解約」にすぎないからです。
「分配金が100円出た」と表現すると、何か得をしたような気になりますが、実体は単に「保有している投資信託が100円分(基準価額ベース)、売却された」だけです。
分配金を出す投資信託は、長期の資産形成を目的に投資する人には不向きですが、証券会社だけでなく、銀行までもが、そのことを承知で、素人の顧客をだまして売り続けてきました。「毎月分配金をお支払いします」というセールストークにつられて、多くの投資の初心者や高齢者が、分配型の投資信託を購入させられてきたのです。
金融庁が、長期投資に向かない毎月分配型の問題点を指摘した途端、毎月分配をウリとする投資信託の新規設定がピタッととまりました。特に銀行窓販の販売もピタッととまりました。「やばい、ばれたか」とあわてた様子が目に浮かびます。
「分配金にかかる税金の支払い分、損をする」は間違い
分配金(普通分配金)には税金がかかります。そのため、「分配金を出す投資信託の保有者は、分配金が出る度に、分配金にかかる税金を支払うことになるので、実質的にはその分、損をする。」と主張する人がいます。これは間違いです。
「分配金を出さない投資信託」と「分配金を出す投資信託」の税金上の違いは、税金を支払いタイミング(利益となった部分にかかる税金を投資信託の解約時にまとめて支払うか、分配金受け取り時に小分けにして支払うか)は異なりますが、支払う税金の総額に大きな違いはありません。(詳細は、後ほどお示しするシミュレーション結果をご覧ください。)
「分配金を出す投資信託」は、分配金が支払われた分、投資元本が少なくなるので、「分配金を出さない投資信託」と比べて、複利効果が減少する。これが「分配金を出す投資信託」が「「分配金を出さない投資信託」と比べて(投資利回りがプラスの場合に)運用結果が劣る(損をすることになる)最大の要因です。
分配金は再投資すべきか
分配金を出す投資信託は「分配金を再投資するか」、「再投資しないか」を選択できる場合があります。この場合、どちらを選択すべきでしょうか。
都度、分配金を受け取ることを選択するなら、最初からその分を投資しないで、手元に現金として置いておくのが最良の選択です。みすみす20%超の税金を支払う必要はありませんから。
分配金を再投資するなら、最初から「分配金を出さない投資信託を選べばいいだけ」です。
どちらにしても、損をすることがわかっている分配金を出す投資信託を買う意味は1つもないということです。
シミュレーション
分配金が支払われる投資信託は、分配金を出さない投資信託と比べて、実額でいくら損をすることになるのでしょうか。 以下の前提をおいて、シミュレーションを実行しました。
前提条件
投資計画
- 投資金額:100万円(一括投資)
- 投資期間:20年間
- 投資信託が投資している資産の期待収益率:4%/年(※1)
※1 ここではシンプルに、投資している資産価格が毎日一定の割合で上昇する(期待リターン4%/年、想定リスク0%/年)と仮定してシミュレーションしています。
投資信託の費用設定
実際の毎月分配型の投資信託を参考にして以下のとおり設定しました。
- 販売手数料:0.0%
- 信託報酬率:1.5%/年
- 信託財産留保額:0.2%
- 取引コスト:0.09%/年
- その他費用:なし
分配金の設定
分配金ありの投資信託の想定は次のとおりです。
- 1回あたりの分配金額:25円/1万口あたり
- 分配金の支払回数:12回/年
- 投資開始日の基準価格:10,000円
- 分配金の再投資:しない
シミュレーション結果
投資する投資信託の期待収益率(費用・税金控除前)を4%/年と仮定して計算した結果です。もちろん、費用や税金の支払いを考慮しています。
分配金を再投資しない場合
分配あり | 分配なし | 差 | |
投資額 | 100万円 | 100万円 | 0 |
値上がり益 | 71万円 | 99万円 | -28万円 |
支払い費用 | -47万円 | -55万円 | 7万円 |
最終運用資産額 | 123万円 | 144万円 | -20万円 |
投資損益 | 23万円 | 44万円 | -20万円 |
期待収益率4%/年の投資信託に、100万円を一括投資して、20年間保有した場合、「分配ありファンド」は「分配なしファンド」に比べて、総額で20万円、損をする結果となりました。
では、同じ条件で、分配金を再投資する場合はどうなるでしょうか。
分配金を再投資する場合
分配あり(再投資) | 分配なし | 差 | |
投資額 | 100万円 | 100万円 | 0 |
値上がり益 | 94万円 | 99万円 | -5万円 |
支払い費用 | -63万円 | -55万円 | 8万円 |
最終運用資産額 | 131万円 | 144万円 | -13万円 |
投資損益 | 31万円 | 44万円 | -13万円 |
期待収益率4%/年の投資信託に、100万円を一括投資して、20年間保有した場合、「分配ありファンド(分配金再投資あり)」は「分配なしファンド」に比べて、総額で13万円、損をする結果となりました。
このシミュレーション条件の場合、分配金を再投資する場合は、再投資しない場合と比べると、まだましな結果となりますが、再投資するなら最初から「分配なしのファンド」を選ぶべきです。
まとめ
毎月分配型の投資信託は、2011年には国内公募の追加型株式投信(ETFを除く)の70%以上の残高を占めていました。最近は、金融庁の指摘が入り銀行が販売から手を引いたこと等により残高減少が続いていますが、それでも今でも全体の約40%の残高を占めています。(2018年時点)
つい最近まで、毎月分配型の投資信託の販売競争を行っていた金融業界。金融庁に分配金の問題をちょっと指摘されただけで、急に販売中止を打ち出す銀行。やはり後ろめたいことを承知やっていたのだと思いました。ほんとに困ったものです。
現実問題として、いまだに「分配金がもらえる」といって、信託報酬が1%を超える高コストの投資信託を喜んで保有し続けているおじいちゃん、おばあちゃんがたくさんいます。このような投資信託を平気で売りつけてくる銀行とは、一切の関わりを持つべきではありませんね。
今も多くの人が金融業者の餌食になっています。「毎月分配型」という呼び名は禁止して、実体にあう「毎月解約型」と命名するように、金融庁は金融業界を指導すべきではないでしょうか。
毎月分配型の投資信託が如何にひどい商品か。それを売っている銀行や証券会社が如何に顧客の利益を無視しているのか。詳しくはこの記事を参照してください。森金融庁長官3年目の責務は「毎月分配型投信の撲滅」だ