そのベンチマークは配当が考慮されていますか

TOPIXや日経平均といった株価指数には「配当込み」と「配当なし」の2種類の指数があることをご存じでしょうか。日本では大半の運用会社が買い手の無知に付け込んで、ベンチマークに「配当なし指数」を設定している異常な状態が常態化しています。そのような顧客本位とは程遠い会社の投資信託は購入しないことをお勧めします。

ベンチマークとは、配当込み指数とは?

ベンチマークという言葉になじみがない、そもそも「配当込み」、「配当なし」という言葉自体初めて聞く、という人が大半ではないでしょうか。そこで、最初にベンチマークとは何かを、それから、配当込み指数と配当なし指数の違いは何かを説明したいと思います。

ベンチマークとは

ベンチマークは、投資信託のパフォーマンスを評価する時の比較対象(基準)となる指標です。一般的には、ベンチマークとして、市場の平均的なパフォーマンスを表す指数(日本株だったらTOPIX等)が採用されています。投資信託のパフォーマンスをベンチマークと比較することで、その投資信託の運用が、平均よりも上手だったか、下手だったかを判定することができます。

説明の順序が逆になりましたが、そもそもの疑問として、投資信託のパフォーマンスを評価するのに、どうしてベンチマークと比較する必要があるのでしょうか。単純に「利益が出ていればいい投資信託」、「損失が発生していたらダメな投資信託」と考えてはいけないのでしょうか。

これに対する答えは「そう考えるのも正解」です。儲かったか否かで評価する方法は、シンプルでわかりやすく、合理的な評価方法の1つです。でも、ベンチマークを基準に評価した方が、より公平で客観的な評価ができるということを次に説明したいと思います。

ベンチマーク

例えば算数のテストで80点を取ったとします。でも、80点がいい成績なのか悪い成績なのかはそれだけでは判断できません。クラスの平均点が60点だったら80点は「賢い」という評価になりますが、クラスの平均点が90点だったら80点は「もう少し頑張りなさい」という評価に変わるからです。

運用パフォーマンスの評価も同じです。ある投資信託に投資して+5%の利益が出たとします。でも、+5%のパフォーマンスがよかったか、悪かったかは、それだけでは判断できません。もし、同時期において株式市場全体が大幅に下落していたならば+5%の数字は「よく頑張った」という評価になりますが、逆に株式市場全体が大幅に上昇していたなら、+5%のパフォーマンスは「下手くそ」という評価に変わります。

運用パフォーマンスをベンチマークと比較することで、運用結果を、市場全体の影響(ベンチマーク収益率)と、運用担当者の技量による結果(ベンチマーク収益率からの乖離部分)とに分けることができるので、より客観的で明確な運用評価が可能になります。

配当込み指数と配当なし指数

TOPIXや日経平均といった株価指数には「配当込み」と「配当なし」の2種類の指数があります。株価指数を算出する時に、株式の配当分を考慮するのが配当込み指数で、考慮しないのが配当なし指数です。

通常、単に日経平均やTOPIXという時は「配当なし指数」をさしています。ニュースで上がった下がったが話題にされる日経平均やTOPIXも「配当なし指数」です。「配当込み指数」が1日1回更新されるのに対して、「配当なし指数」は1秒間隔で算出されるので、ニュースでは即時性の高い「配当なし指数」が用いられています。

一方、投資信託のベンチマークとして用いられるのは(用いられるべきは)、「配当込み指数」です。投資信託の収益に株式の配当収入が含まれているので、比較対象となるベンチマークも配当分を含む「配当込み指数」でないとおかしな比較になってしまうからです。

悪質な投資信託にご注意ください

ベンチマークに株価指数を設定する場合、「配当込み」と「配当なし」のどちらの指数を設定すべきでしょうか。

これに対する答えは明確で議論の余地はありません。投資信託の運用収益は株式の配当を含んだ数字なので、ベンチマークも配当を含む「配当込み指数」でなくてはいけません。配当分を含まない「配当なし指数」をベンチマークとした場合、配当分を含む投資信託のパフォーマンスは、常にベンチマークを上回っているかのような錯覚・誤解を与えることになるからです。

ところが驚くべきことに、日本では「配当なしTOPIX」をベンチマークとする投資信託が数多く存在しています。

ベンチマークの設定・開示は義務ではない為、法律上のお咎めは受けないものの、こうした顧客の利益を無視した行為は、即座に改められなければいけない業界の悪質な慣習です。投資信託協会は、顧客の利益を顧みずこれを長年放置し続けています。もはや行政による強力な指導なくして、改善は図られないでしょう。

過去10年間の配当利回り

次に、「配当無し指数」と「配当込み指数」の違いがどれくらいあるのか、具体的に見てみましょう。下の表は過去10年間の「配当なしTOPIX」と「配当込TOPIX」の年間騰落率の比較です。

配当込みTOPIX(A) 配当なしTOPIX(B) 差異(A-B)
2007 -11.1% -12.2% +1.1%
2008 -40.6% -41.8% +1.2%
2009 +7.6% +5.6% +2.0%
2010 +1.0% -1.0% +1.9%
2011 -17.0% -18.9% +1.9%
2012 +20.9% +18.0% +2.9%
2013 +54.4% +51.5% +2.9%
2014 +10.3% +8.1% +2.2%
2015 +12.1% +9.9% +2.1%
2016 +0.3% -1.9% +2.2%

近年、株主還元を積極的に行う企業が増えたことから、配当込み指数と配当なし指数の利回り差(配当利回り)は拡大傾向にあります。直近5年間における年平均の利回り差は+2.5%、5年間累積の利回り差は+22.9%となっています。

これの意味するところは、たとえパフォーマンスが市場平均並みであっても、「配当なしTOPIX」をベンチマークとして比較することで、あたかも5年間で平均を+22.9%上回ったかのような誤解を与えることを意味しています。

購入してはいけない投資信託

次のような投資信託は購入しないことをお勧めします。

配当なし指数をベンチマークとする投資信託

配当なし指数をベンチマークとして投資信託を評価するのは、6年生の児童の身長を4年生の児童の平均値と比べて評価するようなものです。こうした不適切で投資家を欺く行為が平然とまかり通っているのが日本の資産運用業界の現状です。

実は、同じ運用ファンドでも、プロ向け(年金基金向け)にはベンチマークを配当込みTOPIXとする一方、素人向けの公募投資信託ではベンチマークを配当なしTOPIXとする2重基準が横行しています。その意味するところは一つ。プロは騙せないが、素人はだませると考えてのことです。こんな卑劣な行為を行っているのは日本だけです。欧米で同じことをやるとその運用会社は詐欺として訴えられるでしょう。

ベンチマークを設定していない投資信託

そもそもベンチマークを設定していない投資信託があります。また、ベンチマークは設定しないけれど、「参考指数」という実際には何の参考にもならないものを設定している投資信託があります。これらも顧客に対して不誠実な運用会社、投資信託と考えますので、投資しないことをおすすめします。

ベンチマークの設定は義務ではありませんが、ベンチマークのない運用はありえません。絶対収益の獲得を目標とするヘッジファンドでも、きちんと短期金利指数(少なくとも預金金利以上のパフォーマンスを目指す意図)をベンチマークに設定しています。

ベンチマークを設定していない投資信託は運用担当者をどうやって評価しているのでしょうか。こうした運用会社は自社の運用担当者の評価すらまともにしていない程度の低い会社か、顧客の利益を全く顧みない悪質な会社かのどちらかです。ベンチマークを設定していない投資信託(「参考指数」を設定している投資信託)は、ある意味、配当なし指数をベンチマークとする投資信託よりも悪質かもしれません。

対処方法

こうした顧客の利益を軽視した運用会社(投資信託)にだまされないための対処方法は以下のとおりです

配当なし指数をベンチマークにしている投資信託を購入しない

このような投資信託を運用・販売している会社は、モラルよりも己の利益を優先する悪質な会社です。配当なし指数をベンチマークとしている投資信託はもちろん、このような運用会社が運用する投資信託は購入しないことを強くお勧めします。

ベンチマークを設定していない投資信託を購入しない

そもそもベンチマークを設定していない投資信託が存在します。ベンチマークがなければ適切な評価ができません。このような投資信託はいかなる理由があっても絶対に購入しないでください。

適切なベンチマークがないため、ベンチマークは設定していません

素人の顧客を相手にこう言い切る投資信託(運用会社)がたまにあります。こうした会社は2つの意味で完全にアウトです。1つはベンチマークがない運用はそもそもありえないこと、もう1つは顧客に対して不誠実であることです。

ベンチマークを設定しないでどうやって自社のファンドのパフォーマンス評価を行っているのでしょうか。適切なベンチマークがなければ、適切なベンチマークを開発して設定すればいいだけの話です。絶対収益の獲得を運用目標とする世界のヘッジファンドは短期金利をベンチマークに設定しています。

ベンチマークを設定しない運用会社はそもそも真っ当な運用会社ではありません。くれぐれも運用会社の口車に騙されないようにしてください。

これらに該当する投資信託に見切りをつける

もし、これらに該当する投資信託を既に保有している場合は、早々に見切りをつけて、真っ当な投資信託(運用会社)に乗り換えることを強く推奨します。

ただし、投資信託の乗り換えには費用が掛かります。新たな投資信託の買付手数料だけでなく、投資信託を売却する時に信託財産留保額や譲渡益課税が発生します。実際の乗り換える(解約する)時には、それらを考慮しても乗り換えるメリットがあるかを慎重に検討してください。

ベンチマークを自分で修正してファンドを再評価する

もし、これらに該当する投資信託を何らかの理由で継続保有する場合は、投資信託の購入者自らがベンチマークを正しい数字に修正してファンドを再評価する必要があります。

ベンチマークが「配当なし指数」だった場合は「配当込み指数」との比較を行ってください。配当込み指数の数字がわからない場合は、投資信託の運用会社や販売会社に問い合わせると教えてもらえるでしょう。ベンチマークが設定されていない場合は、なぜベンチマークを設定していないのか、どうやって運用担当者の評価を行っているかを、直接、運用会社に問い合わせてみましょう。